香林居
Q.金沢の中心地に存在すべき、ホテルの姿とは?
そのビルが、この地で次に果たす役割。
石川県を代表する伝統工芸・九谷焼。そのギャラリーとして1971年に誕生したのが、金沢の中心部エリア・香林坊に位置する「眞美堂ビル」である。竣工から半世紀を経て老朽化が進行、一度はビルの取り壊しと再活用が検討されたが、最終的には「リノベーションによるホテルとしての再活用」という方向性に辿り着く。このプロジェクトのホテルプロデュースパートナーとして、私たち水星にも声が掛かった。 いま、この地に、どんなホテルが必要なのか。流行的ではなく、積み重ねられた時間という価値を継承し、さらにその先も継承、継続していくような存在。それはきっと、いかにも金沢らしいものを詰め込むのではなく、香林坊という地の歴史や文化を踏まえたものであるはずだと考えた。
A.香林坊の歴史と情緒を織り込んだ、 スモールラグジュアリーホテル
唯一無二のファサード
「眞美堂ビル」を目にして私たちが最初に感じたこと、それは「ここをホテルにしたらどんなにか素敵だろう」という確信だった。金沢の中でも、特に香林坊というエリアは百貨店やブティックが軒を連ねる最も賑やかな地であり、ここに構える「眞美堂ビル」は、アーチ状の特徴的なファサードを持つ、非常にユニークな建築物だ。ステレオタイプな金沢のイメージとは違った、異色の存在になれるかもしれない、そんな予感があった。
「香林居」という名の由来
調べを進める中で、香林坊という地名は薬局に由来しているという事実に私たちは出会う。延暦寺の僧だった「香林坊」は、のちに還俗し、加賀の薬種商として大成する。この人物の名を冠する街のホテルとして、「処方」をキーワードに組み立てていくのはどうか。香林坊という地にしかない豊かな時間を、心と体に処方するホテル。誰しもが心の奥底で夢想する桃源郷。そんな蜃気楼のような存在が確かに存在していることを示す、「居」という文字。屋号は、「香林居」に決まった。
目指すは、「理想郷的」な体験。
最初のおもてなしは、100年以上の歴史を重ねた茶器で桂花茶から。金沢の営みを映す大きな窓、柔らかな円弧と張り詰めた直線で構成された客室空間が、宿泊者を優しく包む。古くより愛されてきた文化が安心感を与える、選び抜いた家具。名峰白山から取り寄せる森林素材を抽出する蒸留所を設置し、サウナ用のロウリュウウォーター、入浴用のバスウォーターとして癒しを感じていただく。ヘアケア、ボディケアのアメニティは、雪解け水から作る地産地消プロダクトを開発。コンセプトから世界観、インテリア、アイテム、体験に至るまで、全てが地続きとなっている桃源郷を再現した。
時とともに、積み重なる価値
香林居は、日を追うごとに、空間の質が高まり続けている。蒸留の香りは、館内を歩くだけで感じられ、選び抜いたビンテージ家具とオリジナル仕様のカーテン、照明は使われることでさらに馴染んでいく。無彩色の客室から見渡す金沢の街並みは、いつも色鮮やかだ。九谷焼という石川の美の発信拠点だった眞美堂は、土地の空気感を発信する唯一無二のホテルとして、今日もこの街らしさとは何かを人々に伝え続けている。
COLUMN担当者コラム
マネージャー笠井明
織り成された空間と良いホテルの本質
「良いホテル」を定義することにおいて一番重要なことは運営の熱量だと思う。作り手の精練された想いから成る建築や体験、館内に置かれた備品、それらはあくまでホテル内に存在する「もの」に過ぎない。それら全ては語り手として存在する運営スタッフによって、ゲスト一人一人に押し付けられるのではなく、心地よいと感じてもらえるように手に届けられる。かつて薬局を営んだと言われる僧、香林坊から由来して名付けられたホテル、香林居。このホテルには隙や余白がないと感じる。それほどに土地、建物、作り手、運営、多様な思いが交錯し、織り成すホテルである。そして今後もそれを継承されていくことを切に願う。
INFO
- 所在
石川県金沢市片町1丁目1-31
- 時期
2021年10月1日オープン
- 用途
ブティックホテル
- 客室数
18室
SCOPE
- ホテル開発
- ホテル運営