風土の家

    ホテル開発・支援
東京都小笠原村父島

Q.長年愛されてきた宿が辿り着いた、新たな姿とは?

風土の家

小笠原の観光をリードするオーナーとの出会い

2011年に世界自然遺産に認定された小笠原諸島・父島で宿を営むオーナーの中村哲也氏と水星との出会いはコロナ禍。オーナーの観光協会の理事へ就任のタイミングで「小笠原の宿はもっとやれることがある。ぜひお力を貸してくれませんか?」という話をいただいた。2021年3月、私たちは24時間の航海を経て小笠原へと向かった。現地での約30のホテル事業者様に向けたセミナーと、10を超える宿へのアドバイザリーとしての訪問を通じて、少しずつ小笠原の観光や宿泊施設の輪郭が明らかになった。そして、帰路へ着く直前、オーナーから「小笠原の観光を、最前線で引っ張れるような宿に生まれ変わらせたい」という話をいただき、今回のプロジェクトが始まった。

A.小笠原の風土や空気感を身に纏う場所

小笠原の風土や空気感を身に纏う場所

世界自然遺産という観光地でありながら、島の日常がそこにある特異性

小笠原へ行く方法は1つしかなく、東京湾から24時間かけて大型フェリーに揺られた先に世界自然遺産が待っている。島は観光と隣り合わせの雰囲気であり、船が入港している間はあらゆるツアーや観光で盛り上がっている。一方で、風土の家は街から離れた場所に位置しており、観光とは別の島の日常に触れられる場所に位置する珍しい宿である。 そこは、15年間この場所で多くのゲストをもてなしてきたオーナーが切り盛りしており、そんなオーナーが解釈した特別な料理たちを嗜むことができる。 風土の家を目にして私たちが最初に感じたこと、それは日常とも非日常ともいえない「特別な安心感」だった。そこで感じたことを深化させていく形で表現することができれば、島を代表する存在になれると予感していた。何よりも、オーナーの集大成となる宿の生まれ変わりを全力で伴走したいと強く感じた。

運営のモデルチェンジを見越したハード改修

多くの小規模宿は「有人」と「無人」の2種類の運営形態に分けられる。新たなライフステージも見越していたオーナーから、先々は運営形態を「無人」へスムーズに変更が利くような舵切りをしていきたいと伺っていたため、コンドミニアムスタイルへの転換ができるような生活設備が整った空間を目指した。 そこに加えて、集大成という文脈での風土の家の大きな魅力である食事、立地を活かした体験に更なる磨きをかけるべく、付加価値となる体験のアップデートに努めた。

ロゴデザインは、父島を吹き抜ける風と波、そして山並みの稜線を表現。
ロゴデザインは、父島を吹き抜ける風と波、そして山並みの稜線を表現。
客室は、3部屋を1部屋にし、内と外が繋がる空間を意識することで、家電などによる生活感が目立たないよう設計。
客室は、3部屋を1部屋にし、内と外が繋がる空間を意識することで、家電などによる生活感が目立たないよう設計。
オーナーのこだわりが篭められた料理に、より高級感がでるようディレクションを加えた。
オーナーのこだわりが篭められた料理に、より高級感がでるようディレクションを加えた。

風土の家だからこそ提供できるプライベートハネムーン

小笠原は「おがさわら丸」という大型客船に24時間揺られて辿り着くことのできる、かなり特殊な観光地だ。 行き帰りの2日の航海に加え、次の船が出るまで島内で3泊4日する必要があるため、基本的に長期休みが取れるゲストに限定される。その特異性を持つため、もともと利用シーンとして「ハネムーン」が顕在化していたが、高いランクの船室を選択するラグジュリー層がせっかくのハネムーンをより特別に楽しむことができるような体験を散りばめた。「小笠原の風土や空気感を身に纏う場所」というコンセプトに沿って、この場所だからこそできる特別なハネムーン滞在を再設計した。

2名でのゆったりとした贅沢な島生活を意識したレイアウトの母屋。
2名でのゆったりとした贅沢な島生活を意識したレイアウトの母屋。
SUPヨガ、モーニングヨガ、ナイトヨガの3種類も体験できる。
SUPヨガ、モーニングヨガ、ナイトヨガの3種類も体験できる。
島の食材をふんだんに使用したディナーとペアリングコース。
島の食材をふんだんに使用したディナーとペアリングコース。
夕暮れに合わせて、2人だけの空間をビーチにて。
夕暮れに合わせて、2人だけの空間をビーチにて。

これまでもこれからも愛されるべきひとつの宿のかたち

この場所で過ごされた方々が、何を感じてどのような顔で島を旅立ったのか。オーナーがどのようにこだわりを持ってこの小笠原という土地で宿を営んできたのか。これまでの15年間、紡いでこられたことを根掘り葉掘り伺うことで浮かんできた「纏う」という言葉。 「押し付けられるわけでもなく、忙しく動き回るわけでもなく、気づいたら自然と、その土地の風土を感じ、空気感を纏っていた。」 そんな体験をしてほしいという願いを込めて『小笠原の風土や空気感を纏う場所』という宿の姿勢を表せるように『風土の家 TETSUYA』と名付けた。オーナーの哲也さんと宿が纏う包み込むような優しさがこれからもより多くの人に愛されますように。

文責:鈴木 和師

COLUMN担当者コラム

プロデューサー鈴木 和師

小笠原ならではの日常と初めて島に来る非日常の落とし所を探す

マーケティング戦略の策定から始まり、これからの滞在体験をデザインし、リノベーション計画をたて、空間デザインやインテリアを考案し、新しいネーミングとロゴを思案し、アメニティの作成や、小物のセレクト、写真・動画のシューティングにグラフィック制作と、あらゆる局面で建築家さん、デザイナーさん、フォトグラファーさんをはじめとするプロフェッショナルのクリエイターの方々とご一緒させていただきました。何度も小笠原に通いながら、2年近い時を重ねて、これからの宿の形をオーナーとともに熟考した時間は公私問わず大切な財産となっています。中でも、大切な記憶として残っているのが、多くの人に愛されてきた「くつろぎの宿 てつ家」が生まれ変わることへの意思表明となる新しいネーミングとロゴが変わる瞬間に立ち会えたこと。ひとつの宿が15年の年月を経て行き着いた新たな形を目の当たりにできた貴重なプロジェクトだった。

INFO

クライアント

風土の家 TETSUYA

所在地

東京都小笠原村父島字北袋沢

時期

2022年11月リニューアルオープン

用途

オーベルジュ

客室数

4室

SCOPE

  • 撮影・動画制作
  • ホテル開業支援
  • コンセプト策定
  • 空間デザイン
  • 体験コンテンツ設計
  • WEB制作
  • ロゴ・ネーミング制作

CREDIT

  • ホテルプロデューサー龍崎 翔子
  • プロデューサー鈴木 和師
  • フォトグラファー延原 優樹

PARTNER

脇田あすか past inc. 石川建築士事務所
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