The Ryokan Tokyo YUGAWARA

    ホテル開発・支援
神奈川県足柄下郡湯河原町

Q.リソースの限られている温泉旅館を人気宿にする一手とは?

The Ryokan Tokyo YUGAWARA

湯河原の温泉旅館、リブランディングまでの道程

数々の文豪が愛した温泉地・湯河原。その地でインバウンド向け温泉旅館として運営されていたThe Ryokan Tokyo YUGAWARAの運営を引き継ぐことになった水星は、大きく苦戦していた。駅からのアクセスや、温泉が小さいなどのハード、長い閑散期に由来する集客力の弱さなど様々な課題が山積する中、たどり着いたのは、文豪の逗留文化に着想を得た「湯籠り」というコンセプト。そこから生まれたキャッチコピー「湯河原チルアウト」を軸に、自分の世界に籠る「ケの温泉地」としての湯河原の魅力を活かして、非日常ではなく、日常の中の温泉の在り方を探求した。

A.非日常ではなく、日常の延長線上の温泉宿

非日常ではなく、日常の延長線上の温泉宿

大学生のインサイトから生まれた「原稿執筆パック」

The Ryokan Tokyo YUGAWARAの運営を水星が託されたのは、冬の年末の時期。次の繁忙期である3月まではまだ遠く、稼働率は低調を極めていた。ハードを大きく変えることができないという制約がある中で、リブランディングプロジェクトがスタートした。「コンセプトは繁忙期ではなく、閑散期に合わせてつくるべき」という指針の元、湯河原の閑散期である10月~12月や平日でも集客が見込める都内在住の大学生を最重要ターゲットに設定。SNSで拾った声を元に企画した「卒論執筆パック」をリリースしたところSNSで大反響となる。

SNSを中心にUGCが広がる宿泊体験に

その後、「温泉に籠って心行くまで、原稿を書きたい」というたくさんの反響を受けて企画した「大人の原稿執筆パック」は、定番プランとなって、仕事をしたい人、同人誌の制作をしたい人など、「何かに没頭したい人たち」のための温泉旅館として、多くのファンに愛されるようになった。以前は5%しかなかった直接予約の割合は1年で80%(16倍)にまで急上昇。1年間の利益を約4000万円も押し上げ、業績のV字回復を達成することが出来た。

タグライン「湯河原チルアウト」のロゴ。グッズなどに展開して、ブランドイメージを醸成。
タグライン「湯河原チルアウト」のロゴ。グッズなどに展開して、ブランドイメージを醸成。
ハード面の制約が大きかったリブランディングの過程では、元々館内に設置されていたYogiboにフォーカスをして、イメージヴィジュアルを通して「湯籠り」「チルアウト」なシーンを演出した。
ハード面の制約が大きかったリブランディングの過程では、元々館内に設置されていたYogiboにフォーカスをして、イメージヴィジュアルを通して「湯籠り」「チルアウト」なシーンを演出した。
カラフルな部屋はやわらかい自然光を活かしたイメージビジュアルの撮影で、ゆったりくつろげる空間として発信。
カラフルな部屋はやわらかい自然光を活かしたイメージビジュアルの撮影で、ゆったりくつろげる空間として発信。

知覚価値を高めるリブランディング

集客における起死回生の一手「原稿執筆パック」の企画と平行して、キャッチコピー「湯河原チルアウト」を軸に、湯籠りのための温泉旅館の世界観を構築。インバウンド向けの旅館として設計されていた原色が眩しい派手な空間から、各々が自分の世界や作業に没頭できる落ち着いた空間にモデルチェンジ。HPやSNSを通して、新しいブランドイメージの発信を続けることで、クリエーターに愛される旅館としての独自のブランドと認知を獲得していった。

「ケの温泉地」湯河原としての隠れ家のような雰囲気をイメージビジュアルで再現。
「ケの温泉地」湯河原としての隠れ家のような雰囲気をイメージビジュアルで再現。
部屋の中では、くつろぐ、本を読むなど、内面世界や物語の世界にどっぷり浸かる過ごし方を提案
部屋の中では、くつろぐ、本を読むなど、内面世界や物語の世界にどっぷり浸かる過ごし方を提案
大人の原稿執筆パックはSNSで大反響を呼び、The Ryokan Tokyo YUGAWARAのクリエイターのための宿のブランドイメージを決定づけるキラーコンテンツとなった。
大人の原稿執筆パックはSNSで大反響を呼び、The Ryokan Tokyo YUGAWARAのクリエイターのための宿のブランドイメージを決定づけるキラーコンテンツとなった。

その後のThe Ryokan Tokyo YUGAWARA

The Ryokan Tokyo YUGAWARAは、現在、おふろcafe等を運営する温泉道場が運営している。2023には、一部をリニューアルした、おふろcafé HITOMAがオープン。クリエーターが集まる温泉旅館として、執筆や創作活動をする人に向けたプランやコンセプトの一部は引き継がれている。

文責:金井塚 悠生

COLUMN担当者コラム

ホテルプロデューサー龍崎 翔子

箱ではなく、中身をデザインする

「素敵なお部屋に、素敵な温泉、素敵な食事に、素敵な接客をご用意してお待ちしております。どうぞごゆっくりおくつろぎください」というのが、従来の宿泊施設のゲストに対するコミュニケーションだった。最高のしつらえを提供する代わりに、その中でどう過ごすかは客に委ねる、という姿勢である。 私たちはここで、あえてその逆張りをすることにした。「お部屋も、温泉も、食事も接客も、最高には及びません。ただ、あなたはここで集中して溜まった仕事を片付けてください。私たちはそれをサポートします」と。箱そのものではなく、箱の中身をデザインしきることでホテルマーケティングの新たな地平を切り開いたのである。

INFO

所在地

神奈川県足柄下郡湯河原町宮上742

時期

2016年3月オープン(水星での運営は2017年2月〜 ※現在は運営譲渡)

用途

温泉旅館

客室数

11室

SCOPE

  • ホテル開発
  • ホテル運営
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